アルツハイマー病治療薬「レケンビ」で最近話題のエーザイ。製薬に明るくない人でもエーザイのことは知っている人も多いかと思います。
企業研究第4弾としてエーザイについて掘り下げていきたいと思います!
目次
概要
商号 | エーザイ株式会社 (Eisai Cor., Ltd) |
本社 | 東京都文京区小石川4-6-10 |
創業 | 1936年(会社設立:1941年) |
資本金 | 44,986百万円 |
従業員数 | 11,067名(連結)、2,984名(個別) (2024年3月31時点) |
経営理念 | 患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え そのベネフィット向上に貢献し 世界のヘルスケアの多様なニーズを充足する (hhc:ヒューマンヘルスケア理念) |
強みを持つ領域 | 神経領域、がん領域 |
日本衛材株式会社が旧社名で、衛材が名前の由来となっています。
医療用医薬品だけではなく、一般用医薬品の「セルベール」やビタミン剤の「チョコラ」シリーズも販売しており、「ヒューマンヘルスケアのエーザイです」のフレーズはCMでよく聞きますよね。そのため一般消費者にも広く親しまれている製薬企業の1つではないでしょうか。
エーザイは末梢神経障害治療薬の「メチコバール」、胃炎治療薬「セルベックス」で国内の成長を遂げ、アルツハイマー病(AD)治療薬の「アリセプト」やPPI(胃酸分泌抑制薬)の「パリエット」で海外事業を成長してきた会社です。
特にアリセプトはAD治療薬として世界で最も使用されている薬剤で、認知症領域のリーディングカンパニーとしての地位を築きました。
以前はセルベックスやパリエットで消化器領域に強みを持っていましたが、2016年に消化器領域事業を切り離して味の素の消化器領域部門の味の素製薬と統合してEAファーマ(株)を設立しています。EAファーマは現在エーザイの連結子会社として消化器のスペシャリティファーマとなっています。
海外比率
エーザイは、アメリカ、ヨーロッパ、アジアを中心にグローバルな事業展開を行っています。グローバル市場における競争力を高めるため、各国に研究開発拠点を設置して製品開発を進めています。
エーザイの研究開発への投資は非常に積極的であり、毎年売上の約20%を研究開発費として投じています。また、エーザイはオープンイノベーションの推進にも力を入れており、大学や他の企業との協力を通じて、革新的な研究を進めています。
2024年5月15日 2024年3月期 決算 決算短信・説明会資料を基に作成
アメリカス:北米、EMEA:欧州、中東、アフリカ、ロシア、オセアニア、アジア・ラテンアメリカ:韓国、台湾、インド、アセアン、中南米等
2023年度の医薬品事業の売上高は6,915億円、連結の売上高は7,418億円でした。海外売上高比率は約7割と業界内でもトップレベルの水準となっています。
2021年度以降、7,000億円を超える売上収益となっています。
有価証券報告書をもとに作成
製品別売上高(日本)
2024年5月15日 2024年3月期 決算 決算短信・説明会資料を基に作成
2023年度の国内の売上は2,169億円でした。医療用医薬品の売上は1,943億円で、デエビゴ、レンビマ、ヒュミラで3割ほど占めています。ただ、ヒュミラに関しては2023年6月にアッヴィ合同会社との日本での開発および販売契約満了したため、来期の売上は0、一方でレケンビの売上予測を100億円と見込んでいるためヒュミラの売上に代わる予定となっています。
製品別売上高(Top3)
グローバルで見てもレンビマが一番の稼ぎ頭となっており、2,976億円と約40%を占めています。続いてデエビゴの418億円の約6%、ハラヴェン375億円の約5%と上位3製品で約5割稼いでいます。
特にレンビマは前期比19%増、デエビゴは42%増と順調に伸ばしています。
だいぶレンビマに依存していますね
レンビマ・ハラヴェンはともに抗がん剤なので、オンコロジー領域でもプレゼンスを高めているようです。
重点疾患領域
エーザイは神経・がん・熱帯病を重点疾患領域としています。神経領域では特に認知症に注力している点が特徴となっています。
後述しますが、パイプラインからは特に神経・がん領域への開発状況が良い感じに芽が出ています。
エーザイの将来性を考える
エーザイの抱える課題:主力品「レンビマ」の特許切れ
エーザイで今現在最も稼いでいるのは抗がん剤の「レンビマ」です。前述したとおり、現在約4割の売上を稼ぎ出しており、MSDとの協業が功を奏しています。
順調なレンビマですが、2026年に物質特許が満了を迎えるとされており、後発参入が迫ってきています。どの製薬企業も抱える課題は共通してパテントクリフですが、エーザイはあと2年ほどが正念場となっています。
今年3月にはインドの後発メーカーのサン・ファーマとの特許侵害の和解が報じられました。和解条件は未開示となっておりますが、レンビマの後発参入への抵抗が見られています。他にもシルパ・メディケア社との訴訟が続いており、価値最大化への攻防が行われています。
屋台骨のレンビマに依存している構造からの脱却が求められているエーザイですが、どのような戦略がとられているのでしょうか。
アルツハイマー病治療薬「レケンビ」の価値最大化
バイオジェンと共同開発を進めていたアルツハイマー病治療薬のレカネマブ:製品名「レケンビ」が2023年7月6日にアメリカでフル承認、9月25日には日本で承認されました。
今までのアルツハイマー病治療薬は対症療法の薬で、レケンビはアルツハイマー病の原因と考えられている物質を取り除くことで進行を遅らすことが出来る新しい薬です。
2023年度は四半期ごとに売上を伸ばしており、グローバルで42.6億円の収益となりました。
アメリカでは拡大期となっており、一部の施設では200症例を超える導入状況を確認されているとのこと。日本では上市4カ月で600施設で診療・治療パスウェイ構築が完了し、47都道府県全てで投与が開始されたそうです。
現在、レケンビはIV(点滴静注製剤)が承認されており、2週に1回約1時間かけて投与が必要となっています。現在アメリカでは維持療法としてIVで月1回の投与の承認申請、またSC-AI(皮下注射のオートインジェクター)の週に1回の承認申請がされています。
特にSC-AIはテルモ社の技術もあり、痛みの軽減など安全性の向上、投与時間が10秒ほどまで短縮されることで在宅治療が可能になるそうです。現在は限られた医療機関でのみ投与が行われていますが、在宅医療が可能になると対象患者さんがことが予想されます。
また、レケンビはMCI(アルツハイマー病による軽度認知障害)の患者さんで使用可能となっていますが、さらに早期のタイミングのPreclinical ADを対象としたAHEAD 3-45試験(PhaseⅢ)を行っているそうです。
国内の承認に発表されていたピーク時の投与患者数は3.2万人で986億円の売上と推測されていました。対象が広がれば国内だけでも1,000億円を超える可能性も?
2024年度は43億円→565億円の売上拡大を見込んでおり、今後のエーザイの先行きを左右する薬剤となりそうです。
レケンビの競合薬:ドナネマブ(ケセンラ)
2024年7月2日、イーライリリーが開発中しているドナネマブがFDAの承認を取得したと発表しました。どうやら製品名は「ケセンラ:Kisunla」となるようです。
国内では8月1日の薬事審議会・医薬品第一部会で承認可否が予定されており、年内の承認&発売の可能性が出てきました!
試験の結果を直接比較することは出来ませんが、価格や用法用量に違いがあるようです。
アメリカでの患者1人あたりの治療費用は高いものの、投与回数が少ない点や投与の中止基準がある点は臨床の現場からはドナネマブの方が使いやすさの面では利点があるように感じます。ただ、レケンビには先行して発売している利点もあるので実際に発売された後の動向に注目です。
今後のレケンビの戦略としては、
①2週に1度の静注製剤、週に1度の皮下注の製剤追加
②MCIより早期の患者さんを対象での承認取得
これらの承認を取得することでドナネマブに引けを取らない利便性を獲得することで対抗していくみたいです。
パイプライン
エーザイのパイプラインはAD,オンコロジー領域のパイプラインが非常に手厚くなっています。下記に示したパイプライン以外にもデエビゴやグループ企業のEAファーマの消化器のパイプラインをHPに記載がありました。
2024年5月15日 2024年3月期 決算 決算短信・説明会資料
個人的に気になるのはMORAb-202とBB-1701のADC(抗体薬物複合体)です。ADCについては先日別の記事でもまとめました。
MORAb-202はBMSとグローバルで共同開発の契約を結んでいましたが、7月1日に契約の終結・単独での開発を進めることが発表されていました。一般名:farletuzumab ecteribulin(FZEC)で、抗葉酸受容体α抗体と既に承認されているエーザイの抗がん剤ハラヴェン(一般名:エリブリン)を、リンカーを介して結合した ADCです。複数のがん種で臨床試験を進めており、PⅠ~Ⅱの段階です。どうやら2つの試験はBMS主導で完了までは担うようですが、それ以降は単独になります。
また、BB-1701は抗HER2 抗体とFZECと同様にハラヴェンをリンカーを介して結合した ADCとなっています。日米でPⅡが進行中のようで、抗HER2抗体を用いて乳がんを対象に試験を進めていることから将来的に第一三共のエンハーツや中外製薬のカドサイラの競合になるのでしょうか、、、。
両剤ともにエーザイ初となるADCの製品化まで持っていけることを祈っています!!
配当金
2024年3月5日時点
年間配当金(予想):160円
配当利回り:2.41%
権利確定日(中間):9月30日
権利確定日(期末):3月30日
なお、株価の推移はこちら
平均年収推移:安定して1,000万超え!!
有価証券報告書をもとに作成
さすがエーザイ、2022年を除いてここ10年で平均年収は1,000万円を超えています。
羨ましい、、。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
レンビマの特許切れが少しずつ迫ってくる中、やはりキーとなるのはレケンビをどこまで伸ばせるのかが重要になってくるかと思います。
レケンビは薬価が高く、治療を遅らすだけで実感できるレベルかどうか分からないかもしれないのに保険適用に意味があるのか?という声も上がっていますが、個人的にはアルツハイマー病という病態もまだまだ分からず有効な治療薬がなかったこの領域で1つ進歩が見られたことは大きいことだと思っています。
来年の以降の株価は目標であるレケンビ「565億円」を達成できるのかどうか、ここにかかっていると読んでいます。アステラスのベオーザ、住友の3製品のように下方修正とならないことを祈っています。