最近ADC(抗体薬物複合体)がアツイです。第一三共のエンハーツがイケイケなのが理由だと思いますが、製薬会社のパイプラインでも目にする機会が増えてきました。
個人的にはオプジーボ/キイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬の次に市場を占めるのはADCだと思っています。
今回はそんなADCについてまとめてみました。
ADCとは?
ADCとは抗体薬物複合体、Antibody-Drug Conjugateの略称で、がん治療において注目されている先進的な治療薬です。ADCは、特異的な抗体と強力な抗がん剤を結びつけることで、がん細胞に対する選択的な攻撃を可能にし、抗体の特異性と薬物の強力な作用を組み合わせることで、健康な細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、がん細胞を効果的に標的とすることを可能としています。
ADCの構造
ADCは以下の3つの主要な構成要素から成り立っています
- 抗体(Antibody)
- がん細胞表面の特定の抗原(例えばHER2、CD30など)を認識し、結合するために使用されます。
- 抗体はがん細胞に選択的に結合し、正常細胞への影響を減少させる役割を果たします。
つまり、目的地(がん細胞)まで薬剤を運ぶ点で重要な役割を果たします。 - カドサイラやエンハーツといったADCでは、主に乳がんの治療薬として使用されているモノクローナル抗体であるトラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)が用いられています。
- リンカー(Linker)
- 抗体と薬物を結びつける役割を果たします。
- リンカーは安定しており、血中では分解されず、がん細胞に到達した時に初めて分解されて薬物を放出することが求められます。
- ペイロード(Payload)
- がん細胞に直接作用する抗がん剤のことを指します。
- ペイロードには強力な細胞毒性を持つ抗がん剤が使用されます。
- がん細胞内部に取り込まれた後、薬物が放出され、細胞死を引き起こします。
ADCの働き方
ADCの働きは以下のような流れで作用します
- 標的認識と結合
- 抗体部分ががん細胞の表面に存在する特定の抗原に結合します。
- 内在化
- 抗原に結合したADCは細胞膜を通じて内在化され、小胞体に取り込まれます。
- 細胞内の環境でリンカーが分解され、ペイロード(薬物)が放出されます。
- 細胞死の誘導
- 放出された薬物は細胞内のターゲットに作用し、がん細胞のDNAや他の重要な構造を破壊して細胞死を引き起こします。
ADCのメリットと課題
メリット
- 高い特異性:抗体の標的認識能力により、がん細胞に対して選択的に薬物を届けることができます
- 副作用の軽減:健康な細胞への影響が少なくなるため、従来の化学療法に比べて副作用が軽減される可能性があります。
課題
- ペイロードの結合数:一般的にがん細胞に届けられるペイロード(薬物)の数が多い方が強い効果を発揮しますが、結合数が多いと血中の滞留性を悪化し有効性の低下を招く恐れもあります。また、製造のハードルのハードルも上がります。
※1つの抗体に対する結合数はDAR(薬物抗体比)と呼ばれます。 - リンカーの設計:リンカーは目的部位でペイロードを遊離し、体内での血中では安定した構造を保つ必要があります。安全性の観点や効果を最大限発揮する観点からもリンカーの設計が重要ですが、リンカーを安定させて薬物放出のバランスを取ることが難しいとされています。
国内の承認状況
現在国内で承認されているADCは以下の7つです。
()内は国内の販売開始年、企業名
- マイロターグ/ゲムツズマブ オゾガマイシン(2005:ファイザー)
- カドサイラ/トラスツズマブ エムタンシン(2014:中外製薬)
- アドセトリス/ブレンツキシマブ ベドチン(2014:武田薬品)
- ベスポンサ/イノツズマブ オゾガマイシン(2018:ファイザー)
- エンハーツ/トラスツズマブ デルクステカン(2020:第一三共)
- ポライビー/ポラツズマブ ベドチン(2021:中外製薬)
- パドセブ/エンホルツマブ ベドチン(2021:アステラス)
ファイザーのマイロターグが2005年にADCとして国内で初めて承認を取りました。その後10年近く承認されるADCはなく、カドサイラとアドセトリスが2014年に発売されましたがまだまだ数としては少ないですね。
武田、中外、アステラスのADCはペイロードに「ベドチン」を使っているなと思ってみたらもとは全てシージェン社なんですね。ここを買収したファイザーの先行きはいかに、、。
大手製薬会社が相次いで買収や提携を発表
ここ数年、大手製薬会社を中心にADCのパイプラインを有する企業の買収や提携の発表が相次いでいます。ファイザーが買収したシージェンはアステラスや武田薬品などと提携して国内で承認を受けているので、今後の提携がどうなるか注目です。
パイプラインは各社HPの情報をもとに作成(2024年5月22日現在、国内で開発が行われていない薬剤も含まれます)
買収状況をみると、シージェンを買収したファイザーのパイプラインが多岐に渡り、既に3製品が上市しています。国内ではアドセトリス(国内では武田薬品)、パドセブ(国内ではアステラス)が承認済みで、TIVDAKも今年ジェンマブが「化学療法後に増悪した進行または再発の子宮頸がん」を対象に承認申請を行っています。また、ギリアドは2024年1月30日にTrodelvyを「全身療法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性かつ HER2 陰性(HR-/HER2-)乳がん治療薬」、いわゆるトリプルネガティブ乳がんで国内で承認申請を行っています。
※2024年9月9日追記
トロデルビ点滴静注用(一般名:サシツズマブ ゴビテカン)が9月12日の第二部会で承認可否の審議対象に上がりました!承認目前です!
Distamab vedtionはASCOでもPhase3の試験の発表がありました。調べてみたら国内でもHER2を発現している尿路上皮癌を対象に試験が行われているようです。
胃がん、肺がん、乳がんを適応として開発を進めるADCが多い印象を受けます。
また、ここでは買収を中心に話を取り上げましたが、田辺三菱がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象に開発を進めるLoncastuximab tesirineがPhaseⅢ、エーザイはブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)とfarletuzumab ecteribulinの共同開発がPhaseⅡ、協和キリンが急性骨髄性白血病を対象疾患に開発を進めるKK2845がPhaseⅠ準備段階などと内資製薬でも開発を進めているようです。
ADCは評価が高く、各社稼ぎ頭
2023年のADC売上を調べてみました。対象はマイロターグ以外の6製品です。
各社決算発表資料より作成(ベスポンサは1$=156.85JPY、ポライビー/カドサイラは1CHF=172.26JPY換算)
エンハーツとカドサイラのグローバルの売上は特に大きく、年間3000億円を超えています(グラフのカドサイラの売上の大部分はロシュ)。特に第一三共のエンハーツやアステラスのパドセブはまだまだ伸ばしていくことが予想され、稼ぎ頭となっています。
ADCの数は上市数はまだ少ないものの、1発当たるとでかいことがよく分かります。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
エンハーツをはじめとするADCは市場を活性化させており、ジェンマブのADCが承認申請中などと今後も上市の可能性を控えている薬剤も出てきています。
まだ目を通し切れていませんが、ASCOでも何剤か発表があったようなので今後に期待です。