最近血液がんに興味がありBTK阻害薬が目に付きました。最近もイーライリリーと日本新薬からも承認取得した薬剤が出ているなと思い、今回調べてみました。
目次
血液がんの最前線:BTK阻害薬の基礎知識
BTK阻害薬は、主に血液がんの治療に用いられる薬剤です。BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)は、B細胞受容体シグナル伝達経路の重要な酵素であり、B細胞の働きに関与しています。
B細胞とは?
B細胞は、体内に入ってきたウイルスや細菌に対する免疫を担うリンパ球の一種です。
主な役割は「抗体」を作り出すこと。
B細胞の表面にはB細胞受容体(BCR)と呼ばれるタンパク質があり、これが特定の抗原を認識します。BCRに抗原が結合するとB細胞が活性化されて抗体を作り出し、病原体と闘います。
BTKの働きとBTK阻害薬
BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)は、B細胞の「スイッチ」のような役割を持つ酵素です。非受容体型のチロシンキナーゼ Tec ファミリーの一種でB細胞内に存在し、B細胞の増殖や活性化に作用します。この仕組みは、上記で説明した感染症に対する免疫反応に必要不可欠です。また、BTKは主にBCRからのシグナル伝達の刺激によって働きます。
ところが、このシグナル伝達経路が過剰に活性化されるなどしてB細胞の働きが過剰に活性化してしまうと慢性リンパ性白血病(CLL)やマントル細胞リンパ腫(MCL)などが発生するリスクが高まります。
ここで「BTK阻害薬」が登場します。
BTK阻害薬は、名前の通りBTKの働きをブロックする薬です。 BTKが信号を伝えるために必要な「結合部位」にくっついて、その働きを止めます。これにより、B細胞の過剰な活性化が抑えられ、結果としてががん細胞の成長を抑えることで、治療効果を発揮します。
BTKが「B細胞を動かすためのスイッチ」だと説明しました。このスイッチが入るとB細胞が活性化して仕事を始めますが、がんの場合、このスイッチが壊れて「ずっとオン」の状態になってしまいます。BTK阻害薬は、この壊れたスイッチにストッパーとして働き、B細胞が不必要に動き続けるのを防ぐ役割を果たします。
なお、BTKはマスト細胞や好塩基球、T細胞など他の細胞でも発現しています。そのため、BTKは血液がんにおいて非常に有用なターゲットとして開発が進んでいます。
臨床におけるBTK阻害薬
国内で承認されているBTK阻害薬:イムブルビカ・ベレキシブル・カルケンス・ジャイパーカ
現在、BTK阻害薬はCLL(慢性リンパ性白血病)やMCL(マントル細胞リンパ腫)の治療において、非常に効果的な治療法として広く使用されています。
日本国内では4つの製品が承認されています。
先陣を切ったのはイムブルビカ(一般名:イブルチニブ)。2016年3 月に「再発又は難治性の慢性リンパ性白血病 (小リンパ球性リンパ腫を含む)」の適応で製造販売承認を取得し、その後適応を広げています。現在イムブルビカが最も多くの適応を取得しています。
最近ではイーライリリーと日本新薬が共同開発したジャイパーカ(一般名:ピルトブルチニブ)がありますが、現在は他のBTK阻害薬で抵抗性など条件がついています。しかし、ジャイパーカは既存のBTK阻害薬とは結合部位が異なるようなので今後はMCLの初回治療やその他がん種への適応拡大も期待できます。日本新薬を調べた際にもPhaseⅢにMCLとCLLでの開発パイプラインが確認できました。
血液がんにおける今後の新薬:ベイジーン社のBRUKINSA
また、中国の製薬会社であるBeiGene社もBRUKINSA/ブルキンザ(一般名:ザヌブルチニブ)の承認申請を行っています。このブルキンザは既に世界70カ国・地域で承認を受けています。
ブルキンザのPhaseⅢ試験であるALPINE試験では、CLLと小リンパ球性リンパ腫(SLL)の患者に対して、ブルキンザはイブルチニブと真っ向勝負を仕掛け、PFS(無増悪生存期間)で有意性を示し、副作用が少ないことが確認されています。将来的にイムブルビカに取って代わる時代も来るかもしれません。
BTK阻害薬の抗がん剤以外での利用
この記事では、BTK阻害薬の基本的な作用機序から、現在の承認状況を解説しました。
BTK阻害薬は、がん種での開発がまず最初に行われていましたが、がん種以外での疾患を対象にした臨床開発も進んでいます。
2024年4月版新薬開発一覧--薬効・会社別主な国内開発状況-/株式会社じほうをもとに作成
個人的な驚きとしては抗がん剤を中心に扱う大鵬薬品が抗がん剤以外での開発をしていた点です。jRCTで確認する限りはPhaseⅡの試験自体は終えて、解析に入ったくらいでしょうか。
じほうの一覧にはありませんでしたが、ノバルティスも蕁麻疹を対象にBTK阻害薬の開発を行っているようです。各社のプレスリリースなどによると、BTKはアレルギー性疾患に関与するマスト細胞にも発現しているため、BTK阻害薬の開発が進んでいるようです。
今後抗ヒスタミン薬が効かない症例にはBTK阻害薬が選択肢に入ってくるかもしれませんね
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
小野薬品や日本新薬を調べている中でBTK阻害薬という言葉が目に付き、血液がんの勉強も兼ねて今回は調べてみました。適応拡大も含めて数社で開発が進んでいるので今後も目にする機会が出てきそうです。
最近台頭して生きた中国の製薬会社「ベイジーン」の日本第一号製品がブルキンザだと言われているので、こちらも今後目が離せません。
参考文献
Hiroshi Watanabe(2016), 血液腫瘍治療で期待の新規チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブ.ファルマシア, Vol. 52 No.5, p.441.
Yoshimichi Okayama(2022)アレルギー用語解説シリーズブルトン型チロシンキナーゼ.アレルギー, 71巻3号, pp.256―25.
矢崎謙三, 血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 主婦の友社, 2020