こないだとあるフォーラムに参加したところCAR-NKという薬剤の開発について耳にしました。
CAR-Tは聞いたことあるけどなにそれ?と思ったので少し調べてみました。
目次
CAR-NK細胞療法とは?
CAR-T細胞療法(Chimeric Antigen Receptor T-cell Therapy)をご存知でしょうか?
がん治療における最先端の免疫療法の一つで、この治療法は、患者自身のT細胞を取り出し、がん細胞を攻撃する能力を持たせたCAR(Chimeric Antigen Receptor:キメラ抗原受容体)と呼ばれるタンパク質を作り出すことが出来るように遺伝子改変し、その改変したT細胞再び患者さんに戻して治療効果発揮する治療方です。この特に血液がんに対して高い効果が認められています。
T細胞はリンパ球の1種で、他にはNK(ナチュラルキラー)細胞やB細胞があります。これらの細胞は細菌やウイルスなどの異物に対する免疫に関与する機能を持ちます。
CAR-NK細胞療法(Chimeric Antigen Receptor Natural Killer cell Therapy)とは名前の通り、T細胞ではなくNK細胞を改変することでがん細胞に働きかける免疫療法になります。
手順はCAR-Tと同様で以下の流れで治療を行います。
①患者さんからNK細胞を取り出す
➁CAR遺伝を導入し、CAR-NK細胞を作製
③培養、品質検査をして凍結
④患者さんのリンパ球を除いた後にCAR-NK細胞を投与
なぜCAR-NK細胞療法の開発が進んでいるのか
T細胞は獲得免疫と呼ばれ、一度異物と認識したものに対して抗体を作り、活性化して攻撃をします。CAR-Tはその機能を高め、がん細胞に対する認識能力/殺傷能力を高めた細胞とも言えます。
しかしCAR-T細胞療法は固形腫瘍の治療において効果が低いと言われており、現在は血液がんのみの適応となっています。また、副作用としてサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性、移植片対宿主病(GVHD)が知られており、特にCRSは過剰な免疫反応によって細胞からサイトカインが放出されることによって起きる副作用で、時には死に至る恐れがあります。
一方NK 細胞はもともと備わっている防御機構(自然免疫)で、抗原がなくても外敵を認識して殺す能⼒があり、素早く攻撃します。がん抗原を発現していないがん細胞に対してT細胞は攻撃出来ませんが、NK細胞はこちらも幅広く攻撃が可能となっています。
また、CAR-NK細胞療法はCRSや神経毒性のリスクが低いことが分かってきています。
現在のCAR-NK細胞療法では自分の細胞ではなく他人の細胞由来(いわゆる”他家”)の開発が進んでします。CAR-T細胞療法では他家細胞では拒絶反応が課題となっていますが、CAR-NK細胞療法ではこのリスクが少ないと考えられています。もちろんCAR-T細胞療法でも開発が進んでいますが、ハードルは少し高いようです。
自分の細胞を用いることは安全にも思えますが、完全オーダーメイド故に作成に時間がかかることや、品質が安定しなかったりコストが高いなどの課題があります。
一方で他家細胞を用いることで、大量生産によるコストダウン、必要な時にすぐ使えるメリットがあります。そのためiPS細胞などを利用した開発が進んでおります。
国内の開発状況
国内での開発状況について調べてみました。
現在走っている臨床試験は1つで、非臨床での研究開発も行っている会社がありました。
武田薬品工業:TAK-007
国立がん研究センター東病院:iCAR-ILC-N101
小野薬品工業:非臨床
アステラス:非臨床
武田薬品HP、jRCTHPなどの情報をもとに作成
TAK-007はアメリカのMD Anderson Cancer Centerとの共同開発で、IL-15で“武装”し、CD19陽性B細胞性悪性腫瘍を標的としたCAR-NK細胞療法でPhaseⅡが走っていました。しかし、2024年5月の決算発表で抗がん剤での開発中止&自己免疫疾患への開発転換を発表しています。今後2025年にループス腎炎での臨床試験入りを目指しているようです。
そして現在恐らく唯一走っている臨床試験は、国立がん研究センター東病院と京都大学iPS細胞研究所で共同開発を進めているiCAR-ILC-N101です。グリピカン3(GPC3)を発現させたiPS細胞由来ILC/NK細胞で、安全性と忍容性を評価するPhaseⅠ試験が実施されています。GPC3は極めてがん特異性の高いタンパク質で、卵巣明細胞癌がGPC3をよく発現することから対象疾患として選ばれたようです。
また、小野薬品もCAR-NK細胞療法の開発を進めているようです。まだパイプラインにものっていませんが、米国Fate Therapeutics社と固形がんに対するiPS細胞由来CAR-NK細胞療法の提携を結んでいます。
Fate社はFT522がPhaseⅠに入っている実績があり、計3つのパイプラインを有しています。今後の動向に注目ですね。
Fate社HPより引用
アステラスも情報が少ないですが、オンコロジーでのCAR-NK細胞療法の研究を進めているようです。
海外の開発状況
ClinicalTrials.govで開発状況について調べてみました。
PhaseⅡの段階まで進んだと思われる試験が29試験ほどありました(中止などまでは終えてませんが、、)。
まだ承認にいたったCAR-NK細胞療法はありませんでしたが、開発が進んできているのが分かります。
血液がんでの開発が多いですが、中には卵巣がんや膵臓がんなどの固形がんを対象とした試験もありました。
TROP2-CAR-NKとか書いてあった、、。期待したい!!
MD Andersonなどアメリカでの開発が進んでいるようですが、特に気になったのは中国です。
Chongqing Precision Biotech Co., Ltd(精准生物)は2016年設立と、比較的新しい会社のようですが既に何製品かCAR-T細胞療法で承認を取っており、CD123を対象としたCAR-NK細胞療法で現在PhaseⅡでリクルートを行っています。そのほか北京大学など中国の大学や製薬会社の名前がありました。
この分野では日本より中国の方が進んでいますね、、、。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
まだ承認された薬剤はないものの、今後実用化されるのは間違いないと思っています。
特にアメリカと中国の開発が凄まじく、日本での開発も進んでほしいなあ~と感じました。個人的にChongqing Precision Biotech Co., Ltdは伸びしろがありそうな会社だなと思ったのでたまに動向を追っていきたいです。上場してたら買ったのに!!