最近決算発表の時期ということもあり、様々な製薬の資料を見ていました。その中で、2023年の武田薬品の血漿分画製剤の売上収益は、8,186億円、そのうち免疫グロブリン製剤の売上合計は、6,446億円も稼いでいる点が目につきました。
グロブリン製剤ってそんなに売れているの?そもそも血漿分画製剤ってあんまり知らない、、
そんな疑問から「今回は血漿分画製剤」についてまとめました。
目次
血漿分画製剤製剤とは?
血漿分画製剤製剤とは、ヒト血漿を原料に作られる医療用医薬品を指します。
血液製剤は、医療の現場で不可欠な存在です。輸血や治療に使用される血液製剤は、多くの患者の命を救い、生活の質を向上させる役割を果たしています。本記事では、血液製剤の種類、製造方法、用途、副作用、及び今後の展望について詳しく解説します。
そもそも血漿とは血液の血球成分を除く液体のことで、タンパクや糖質、老廃物などが溶けています。血漿は人工的に作り出すことが出来ないため、採血で集めた血液を元に血漿分画製剤が作られます。
また、血球成分をもとに作られるのが輸血として用いられる「輸血用血液製剤」です。
血漿分画製剤と輸血用血液製剤を合わせて血液製剤と言います。
血漿分画製剤の種類
血漿分画製剤は、以下のような種類があります。
- アルブミン製剤
- 免疫グロブリン製剤
- 血液凝固因子製剤
- アンチトロンビン製剤
- 組織接着剤
血漿分画製剤の中には代替薬がないものもあります。例えば、生まれつきある特定のタンパク質が作れない(又は減少している)人の場合や症状が重い人の場合には、他の薬による治療ではその症状を回復させる事が困難な場合があります。血漿分画製剤は、このような他の薬などによる治療が困難な場合に使用されます。血友病は血液凝固因子の異常のために起こる疾患で、血漿分画製剤を使う代表的な疾患ですが、ヘムライブラなどの抗体医薬などの開発が進みつつあります。
血漿分画製剤の製造方法
血漿分画製剤の製造は、献血者から採取した血液を元に行われます。以下に主要な製造過程を説明します。
採血
まず、献血によって血液を集めます。採取された血液は、血液型や感染症の有無を確認するための検査が行われます(採血の際にも問診などで情報収集し、)。国内での採血事業は日本赤十字社のみで、国外では製薬会社などの採血センターなどで採血が行われています。また、輸血用血液製剤の製造・供給をしているのも日本赤十字社のみとなります。
国内で採血された血液は、一般社団法人日本血液製剤機構、日本製薬(武田薬品グループ)、KMバイオロジクスの3社に供給されて製剤化されていきます。
その他の企業は海外からの輸入によって血漿を調達しているようです。武田薬品は全世界に採血センターを200以上も有しており、国内での製剤化にも大きな投資をしています。
シャイアー買収時で血漿分画製剤の強化を図ったようです
血漿分画/精製
採取された全血は、遠心分離機を用いて成分ごとに分離されます。この過程で赤血球、血漿、血小板などが個別に取り出されます。その後、エタノール分画法という分離法によって免疫グロブリンやアルブミンなどを分離し、製剤化を行います。検査で感知できないウイルスによる感染症防止のため、ウイルス不活性化も行われます。
充填/品質管理
製造された血液製剤は、バイアルなどに充填され、その後は厳格な品質管理の下で保存、出荷されて卸や医療機関へ届けられます。
血漿分画製剤(血液製剤)の副作用
血漿分画製剤の使用には、副作用のリスクもあります。以下に主な副作用を挙げます。
アレルギー反応
血液製剤に対するアレルギー反応は、発疹、発熱、呼吸困難などの症状が現れることがあります。抗アレルギー薬や解熱剤など対応します。
感染症のリスク
血液製剤を介して感染症が伝播するリスクがあります。特にウイルス感染のリスクが問題となりますが、現代の厳格な検査と管理によりリスクは大幅に減少しています。1980年代に薬害エイズが社会問題となっていたようですが、加熱処理などが施されるようになり、2022年の輸血による感染症例は5例だそうです。
移植片対宿主病(GVHD)
輸血後移植片対宿主病(PT-GVHD)は、血液製剤中のリンパ球が受血者の組織を攻撃することによって生じる病態です。GVHDの安全対策として放射線照射を輸血用血液製剤に行っており、現在国内での確定症例はないようです。
副作用の例をいくつか挙げましたが、日本赤十字社によると副作用なしが赤血球製剤で99.42%、血小板製剤で97.85%、血漿製剤で98.96%と、副作用は稀となっています。また、副作用の多くは発疹・蕁麻疹なので、しっかりとバイタルを確認することでリスク軽減できるかと思います。
血漿分画製剤の市場について
国内の輸血用血液製剤の製造・供給は日本赤十字社のみとなっていますが、血漿分画製剤はどのような市場となっているのでしょうか。
日本の血漿分画製剤市場:5社のみ
日本血液製剤協会によると、加盟企業は以下の5社のみとなっています。
- KMバイオロジクス(株)
- CSLベーリング(株)
- 武田薬品工業(株)
- 帝人ファーマ(株)
- 一般社団法人 日本血液製剤機構
世界の血漿分画製剤市場
世界の血漿分画製剤市場は2023年に約328億3000万ドルといわれており、上位3社で7割近くを占めているようです。
第一位:CSL(本社:オーストラリア、CSLベーリングの本社はアメリカ)
第二位:武田薬品工業(株)
第三位:グリフォルス(本社:スペイン)
新規参入のハードルが高い市場:原料調達が難しい、薬価改定の影響
厚労省によると、営業利益率3%と一般的な医薬品製造と比べて採算がよくありません。その原因は製造原価率が61%と、コストが膨大であることが理由です。一方で研究開発費はないのも特徴的です。
また、血液法の縛りがあり、国内で血液を調達できるのは日本赤十字社のみで、血漿成分も一般社団法人日本血液製剤機構、日本製薬、KMバイオロジクスの3社にしか供給されていません。そのため、新規参入する企業は皆無であるかと思います。
その他にも薬価改定の影響もあり、血漿分画製剤であっても年々薬価が下がり続けており、国内市場は厳しいようです。一方で海外市場は堅調に拡大しており、特に免疫グロブリン製剤が適応拡大によって売上が伸びているようです。
血漿分画製剤の今後の展望
血漿分画製剤の分野は、技術の進歩により大きな変革を迎えています。以下に今後の展望を示します。
血漿分画製剤の新薬
ヒトの血漿から製造される製剤であることから画期的な新薬の開発の進みにくい分野ですが、研究開発は行われています。最近では武田薬品のHQVIAが、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の成人患者さんにおける神経筋障害および機能障害の再発予防の維持療法としてFDAに承認されています。これは皮下注用免疫グロブリン製剤で、やはり免疫グロブリン製剤の需要は依然として高いのかなと思います。
輸出に活路
血漿分画製剤は長年輸出が禁止されていました。余剰分の血漿分画製剤は破棄され、不足する場合は輸入するといった構造であったため、コストもかかっていました。2024年2月の献血から海外輸出の同意取得が開始されているようで、途上国の血友病の患者さんに無償提供されるようです。製造は国内のメーカーとなるので、少なからず収益にも影響するのではないでしょうか。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
血漿分画製剤は医療において欠かせない存在であり、患者さんの命を救う重要な役割を果たしています。原料が人の血液で、国内で後発企業参入などといったことはありませんが、薬価は年々下がっているかつ低い営業利益率であることは課題であるように感じました。
今後海外への輸出がどう影響するのか、適応拡大で間口を広げることができるのか、この辺りが血漿分画製剤市場の今後を左右するのではないでしょうか。
最近は献血の量が不足しているようなので、これを機に献血に行きたいなと思います。