長期収載品の選定療養化について

医療用語解説

こんにちは!

製薬業界で生きるLapinです。

今回は昨年の中医協などで議論されていた長期収載品の選定療養化についてまとめていきたいと思います。

そもそも長期収載品とは?

長期収載品とは、新薬として発売された後に特許期間や再審査期間が終了して同じ効能・効果を持つ後発品(ジェネリック医薬品)の販売が可能になっている先発品を指します。

簡単に言えば、既に後発品のある先発医薬品です。
(ないものもありますが大半は後発品が参入しています)

後発品が参入しているので売上をピーク時よりも下がっていることが大半ですが、中小企業にとってはまだまだ大きな売上高を占めていたり、安定供給の面から簡単に撤退できない背景があります。

後発医薬品の薬価算定

初めて後発医薬品が薬価収載される際には何点かルールがあります。

  • 先発品の薬価に0.5を乗じた薬価
  • 内用薬に関しては銘柄数が10を超える場合には0.4を乗じた薬価(今後銘柄数7に変更予定)
  • BS(バイオシミラー・バイオ後続品)に関しては先発品の薬価に0.7を乗じた
  • 薬価内用薬に関しては銘柄数が10を超える場合は0.6を乗じた薬価

引用元:AnsewrsNews 後発医薬品の薬価

基本的なルールは上記の4点です。つまり後発品が登場すると半額以下の競合品が登場することになります。先発品が薬価収載時に加算を受けていると、その加算分を差し引いたうえで0.4~0.7を乗するためさらに安くなります。

武田薬品の高血圧症治療薬のアジルバには2023年6月に12社が参入し、薬価収載の際には新薬創出等加算を差し引いた上で0.4乗じた薬価となり、価格差が大きくなりました。

2023年のアジルバ錠20mgの薬価は140.10円、後発品は37.00円。

約26%まで下がったことを踏まえると武田薬品のアジルバは大きな打撃が予想されます。

後発品のシェアが増えると高騰する国の医療費抑制に繋がるため、厚生労働省は後発品の使用促進を促しています。先ほどの例としてアジルバの例を挙げると、2022年のアジルバの売上は729億円、例えば半分が後発品に置き換わるだけで約270億円の医療費に抑制繋がります。1剤でもそれなりに大きい..。

選定療養費とは

選定療養費とは患者さんの選択によって生じる保険診療以外の費用のことです。

例として

  • 差額ベッド代
  • 200床以上の病院の初診
  • 予約診療
  • 時間外診療
  • 規定回数以上の医療行為(リハビリなど)

上記などが挙げられます。

日本では国民皆保険制度によって国民誰もが医療機関を自由に選べ、公的医療保険で保障されています。国の財源から医療費が賄われるため、むやみにどんな治療でも保険対象になるのではなく保険で認められた治療法が保険給付の対象となっています。

ここで注意が必要なのが、保険で認められている治療法と保険で認められていない治療法の併用(いわゆる混合診療)は原則として禁止されています。

ただし、保険外併用療養費といって保険診療と併用が認められている療養があります。それが評価療養(治験などがこれに該当)と上記で説明した選定療養になります。

つまり、選定療養費は保険適応+αの全額自己負担になります。

長期収載品の選定療養化について:2024年10月開始!

本題に入ります。

昨年長期収載品に選定療養を導入し、患者の追加負担を長期収載品と後発品の価格差の「4分の1」とすることが決定されました。

簡単に概要をまとめます。

  • 2024年10月スタート(9月発行の処方箋は対象外)
  • 最も高い後発医薬品との差額の4分の1が自己負担(4分の3を保険給付)
    差額が1000円あったとすると250円は自己負担に(患者負担増)
  • 対象は後発医薬品発売後5年以上経過または後発品の置換え率が50%以上の長期収載品
    (約700成分)

対象外になるケースは

  • 医師が医療上の必要性があると判断し長期収載品を処方した場合
  • 後発医薬品の提供が困難な場合
  • バイオ医薬品(BS:バイオシミラー)
Lapin
Lapin

使用感、味なとどいった理由は対象外として認められないようです。ヒルドイドなどは使用感で選んでいる患者さんも多いのではないでしょうか。

厚労省の言い分としては先発企業は特許期間中に研究開発費を回収して次の新薬開発に乗り出すのがあるべき姿で、長期収載品に依存などせずに速やかに後発企業に安定供給の役割を譲るべきだとのこと。

Lapin
Lapin

厚労省の資料には海外と比較して日本の長期収載品のシェアは高いなどのデータを提示しています

厚労省によると、長期収載品を扱う全企業(120社)のうち、長期収載品が売上構成比の5割以上を占める企業が約2割存在するそうです。

これが何を示すのか。

間違いなく新薬を出せず長期収載品を主力とする企業が大打撃を受けます

長期収載品が薬剤費の1.8兆円を占める中、国として医療費を削減する中で毎年の薬価改定にとどまらず次に目を付けたのが長期収載品というわけです。

今後製薬企業として新薬を開発していくのか、場合によっては切り離しなども検討していくのか分かれていきそうな予感がします。

昨年はヤクルト本社が医療用医薬品事業の新規開発を行わない方針を発表する事例もあったので、転換期を迎えそうです。

また、選定療養化に関しては長期収載品を使用している患者負担も増加することから製薬企業以外からの団体からも反対意見が出ています。

長期収載品の「選定療養費」化に反対 - 山口県保険医協会

記事の中には

そもそも処方する薬剤は、「医療上の必要性がない」ことはありえず、それを否定することは処方権の侵害である。

引用元:山口県保険医協会HP

強めの怒りを感じる文言が盛り込まれています…。

昨年の12月20日に武見敬三厚労相と鈴木俊一財務相が2024年度予算編成をめぐり大臣折衝を行って合意に至ったというニュースが出ていましたが、10月までにまだまだ議論を呼びそうな決定だったと思います。

厚労省は長期収載品の選定療養化の周知のため、ポスターの告知をしています。

長期収載品の選定療養対象医薬品:2024年4月19日付け!

※2024年4月19日に対象となる医薬品が公表されました!
※対象医薬品リストはこちら

対象医薬品は1095品目。数もさることながら、各社売上の柱も担っている医薬品も散見されます。
この制度は恐らく新薬がなかなか出てきにくい中堅が打撃を受ける制度なので、中堅会社の該当成分も見ていきたいと思います。

会社名対象の主力製品主力製品の売上先発
薬価
後発最高薬価薬価差
久光製薬モーラステープ群 Ex)モーラスパップXR120mg255億円
(2024年2月期)
29.7円17.1円12.6円
杏林製薬ペンタサ EX)ペンタサ錠500mg118億円
(2024年3月期予想)
51.8円28円23.8円
ゼリア
新薬
アサコール
アサコール錠400mg
195億円
(2022年売上高)
37.3円19円15.2円
持田製薬レクサプロ EX)レクサプロ錠20mg65億円
(2024年3月期予想)
164.1円60円104.1円
キッセイ薬品ユリーフ
EX)ユリーフ錠4mg
16億円
(2024年3月期予想)
34円14.5円19.5円
科研製薬アルツ181億円 (2024年3月予想)733円600円133円

単純に薬価差が大きいほど、今後先発を使用することで患者自己負担が増加することになります。

用法用量を反映しておらず、1錠単位などになっているので一概に言えませんが、やはり中堅メーカーへのダメージは下げれないでのはないでしょうか。

個人的な印象としては久光への影響大きそうキッセイは最近新薬で稼いでおり、影響は少ない、、?

また、ヒルドイドが話題に上がっていたので調べてみました。(簡易版ですが)

ヒルドイドクリームを例に上げてみましょう。
例えば300g入っているとすると1本の薬価は5,550円、後発品は1,680円になります。

3割負担に直すと、先発品1,665円後発品504円というのが現在の通常の窓口負担になります。

それでは新たな制度について説明します。
ポイントなのは、選定療養の計算、3割負担の計算に分けて考えることです!

まずは選定療養の計算を行います。
先発品と後発品の薬価差3,870円の4分の1である967.5が選定療養となり、さらに消費税10%が上乗せされると1,064.25円になります。

※保険外診療には消費税がかかります。

続いて3割負担の計算です。
先発品5,550円からさきほどの選定療養967.5円を除外した額の(4,582.5円)3割負担は1,374.75円になります。

この2つの数字をたします。

1,064.25+1,374.75=2,439

つまり自己負担額は2,439円になります。

Lapin
Lapin

計算めんどくさい笑

今までは美肌効果を目的に使っていた人は800円弱高くなるので、SNSで大きく取り上げていられるんだと思われます。本当に必要な患者さんの負担も増え、開発力のない製薬企業にとっても売上への影響は下げられませんね。

最後に

最後までご覧いただきありがとうございました。

今回は個人的に気になっていたトピックを記事にまとめてみました。

前職では長期収載品の情報提供を行い、売上を追っていた身なので長期収載品に選定療養を導入するニュースは衝撃的でした。

この制度は患者さんの希望先発品を選ぶ差額の一部(差額の4分の1)を負担することになります。

社会全体では医療費抑制に繋がるかもしれませんが、現在長期収載品を使用している患者さんの負担増に影響するために先生の処方の変更もあるかと思います。

今後も目が離せないですね。

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