先日金沢大学附属病院で膵臓がんの術後生存率が55%というニュースをみました。
最近がん治療が凄く向上しているなと感じます。
今回はそんな「がん」についてまとめてみました。
目次
そもそも「がん」となにか
がんは遺伝子が傷つき生じた異常な細胞が増え続ける病気です。
人の身体は約60兆個の細胞で出来ており、毎日細胞分裂が行われています。細胞分裂の際に遺伝子に変異が起こり、細胞が無秩序に増幅することがあります。こうしてコピーミスで起きるのがいわゆる細胞のがん化です。
喫煙や飲酒などストレスによって細胞は刺激を受けてこうした異変が起こりますが、がん抑制遺伝子という相対するものが備わっており、免疫細胞なども活躍することでがん化した細胞は修復、細胞死に追いやっていることで身体は正常に保たれています(健康な人でも毎日約5000個のがん細胞が生じると言われています)。
がん細胞が無秩序に増え続けて歯止めが効かなくなった状態が「がん」です。
国立がん研究センターによると、生涯でがんになる可能性は男性で65.5%、女性で51.2%と過半数の人が罹患する疾患となっています。
抗がん剤の歴史と種類
抗がん剤の歴史は意外と浅く、20世紀に入ってからになります。
第二次世界大戦と抗がん剤の始まり(アルキル化薬)
第二次世界大戦中、化学兵器の使用が広まり、その中には化学療法に関連する物質も含まれていました。この時期、硫黄マスタード(マスタードガス)が初めて化学兵器として使用されましたが、その後、抗がん剤としての可能性が探求されました。硫黄マスタードはDNAにアルキル基を導入し、がん細胞の増殖を阻害する作用があることが発見され、これが後の抗がん剤の研究につながりました。その後改良が重ねられ、アルキル化薬として、シクロホスファミドなどが代表的な薬剤となっています。
毒ガスから抗がん剤が生まれた!!!!
初の実用的な抗がん剤: メトトレキサート(MTX)
1950年代になると、初の実用的な抗がん剤であるメトトレキサートが登場しました。メトトレキサートは代謝拮抗薬に分類され、がん細胞のDNA合成を妨げ、腫瘍の成長を抑制する作用がありました。これは白血病や悪性リンパ腫の治療に成功を収め、抗がん剤の有効性を示す大きな進歩でした。
メトトレキサートは関節リウマチの治療薬としても有名ですよね。
プラチナ(白金)製剤
1970年代には、新たなクラスの抗がん剤であるプラチナ製剤が導入されました。代表的なプラチナ製剤はシスプラチンとカルボプラチンです。主に固形腫瘍の治療に使用され、DNAと共有結合し、DNA複製を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。ただし、初めは強い腎毒性のために難航し、シスプラチンは大量の輸液や利尿薬を用いることでプラチナ製剤としての地位を確立しました。カルボプラチンはシスプラチンよりも腎毒性が弱くなっています。現在でも標準治療として多く使われている薬剤です。
プラチナ製剤での治療はとにかく腎臓を洗い流す印象ががとても強い薬剤です。
ホルモン療法
1980年代には、ホルモン療法が国内で承認が始まりました。代表的な薬剤であるタモキシフェンは、非ステロイド性の抗エストロゲン剤で、アストラゼネカ開発しました。1970代にアメリカで有効性が確認され、日本では 1981 年に上市され、乳癌の治療薬として治療に使用されています。
トポイソメラーゼ阻害薬
1990年代には、イリノテカンを代表とするようなトポイソメラーゼ阻害薬が承認されています。トポイソメラーゼ阻害薬はⅠ型とⅡ型があり、DNA再結合を防ぐことでアポトーシスを引き起こして抗腫瘍効果を発揮します。
微小管阻害薬
1990年代、微小管阻害薬と呼ばれる薬剤が承認されています。微小管阻害薬は細胞の有糸分裂の際に必要となる微小管を形成するチュブリンと結合し、細胞分裂を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。代表的な薬剤ではパクリタキセルがあります。
トポイソメラーゼ阻害薬や微小管阻害薬は植物アルカロイドが起源!!!
分子標的療薬の台頭
1990年代後半~2000年代以降、抗がん剤の分野では分子標的療薬が注目されるようになりました。従来の抗がん剤では正常な細胞にも作用してしまうため、抗がん剤の有効性よりも副作用の方が強くなってしまうことがあるのが課題でした。
がん細胞の増殖や転移、浸潤に関わる特定の分子標的に結合し、正確ながん治療を可能にしました。つまり、正常な細胞への影響を小さくすることが可能になった治療法です。
1998年にアメリカでHER2を標的としたトラスヅマブが承認されてから、現在では様々な分子標的薬が承認されています。
免疫療法の台頭
抗がん剤の歴史の中で、免疫療法も重要な位置を占めています。免疫療法は免疫系を活性化し、がん細胞に対する免疫応答を強化する治療法です。昔から免疫療法という言葉自体はありましたが、有効性などのエビデンスも乏しく、民間療法などの域で自由診療で行われることが多かった背景があります。こうした免疫療法ですが、日本発の治療薬ニボルマブなどの登場により、非常に多くのエビデンスが集積され、現在ではどのように活性化されて台頭してきました。免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法など、免疫療法の進化は、今後がん治療の新たな展望を開いていくと思われます。
今後の抗がん剤: 個人個人にカスタマイズされた治療?
世界で1人、またはごくごくわずかしか患者さんがいない超希少疾患も存在します。そういった疾患では開発リターンも見込めず、製薬会社がなかなか開発できない課題も存在します。
そうした中、欧米を中心にこのような患者さんに治療薬を届ける“N of 1 treatment(医療)”が始まっています。実際にハーバード大学の関連病院であるボストン小児病院でミラという少女のために、医師主導治験という形でFDAから許可を取り、オーダーメイドの治療薬の開発が行われました。
現代の抗がん剤は、様々なモダリティで開発が進められており、以前に比べて治療の手段もどんどん増えています。特に分子標的薬や免疫療法ではがんの種類や個別の遺伝子プロファイルに合わせた治療法になっています。コンパニオン診断などで事前にある程度効くのかどうかも分かるようになってきています。
将来的には個別化医療が進み、患者さん一人ひとり対してより効果的で少ない副作用のある治療薬が実現される未来も遠くないのではないでしょうか。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
MR時代は症例単位での話込みではがんについて先生方と話すことはありましたが、抗がん剤そのものは扱ったことはなく、勉強したいと思い今回の記事をまとめてみました。
概要的な感じで書いたので個々の抗がん剤について掘り下げてはいませんが、最近は第一三共の抗がん剤がイケイケな印象があり、内資系の製薬会社も革新的な抗がん剤をどんどん世に送り出してくれそうな気がしています。
製薬業界でキャリアを築く上でも”オンコロジー領域”は求められているかと思いますので、さわり部分として参考になれば幸いです。