みなさんこんにちは!
製薬業界で生きるLapinです。
今回は「プラセボ」については話していきたいと思います。用語自体はみなさんご存知かと思いますので、臨床試験においてなぜプラセボが用いられるのかなども併せて解説していきたいと思います。
プラセボ効果(プラシーボ効果)とは?
プラセボとは、有効成分が入っておらず本物の薬に似せて作られた偽薬のことです。デンプンや糖など身体に害のないもので作られており、錠剤やカプセルなどの剤形があります。プラセボ効果とは、プラセボを服薬することによって生じる症状の改善や副作用が出ることを言います。思い込みによる心理効果ですね。ちなみに副作用などの負の面に関してはノセボ効果といいます。
ちなみにプラセボはラテン語で「喜ばせる」という言葉が語源になっています。
なぜ臨床試験でプラセボを用いるのか?
治験薬の有効性・安全性を科学的に証明するためです。
臨床試験時にプラセボ効果が働くと本当に治験薬が作用したことによって奏功したのかどうかがマスキングされてしまい、試験結果を科学的に判断できなくなってしまう恐れがあります。そのため多くの臨床試験ではプラセボが用いられ、二重盲検比較試験(DBT:Double Blind Test)と呼ばれる被験者も医師もどちらの薬剤を用いているのか分からなくして試験を行います。治験薬を提供する製薬会社でも現場のCRAは盲検化されており、ごく一部の人しか治験薬なのかプラセボ(対照薬)なのか分かりません。
精神疾患系の薬剤や被験者、試験によっては被験者の家族の主観的な情報をもとに評価をするケースがあります。もし医師がプラセボと分かっていたら顔に出てしまった被験者が察してしまう恐れもありますよね。「ああ、私はプラセボを投与されたんだな。外れを引いてしまった。」と思ってしまうとバイアスがかかり、あまり効果が出ない恐れもあります。
最近話題のエーザイ/バイオジェンの「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」で承認を取得したレケンビ点滴静注(一般名:レカネマブ)の試験の主要評価項目では、全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBを用いてました。この指標は、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会の活動、家庭および趣味、身の回りの世話の6項目について、被験者の診察や家族および介護者からの情報で評価するものです。ちょっとしたバイアスで点数は変動しそうな印象がありますよね。レケンビの試験ではプラセボとレケンビ群(レカネマブ群)のCDR-SBはこのように変化していたようです。
引用元:レケンビ点滴静注添付文書
話は逸れましたが、治験薬に効果があるのかないのかはプラセボと比較して統計解析をすることで評価できるということでした(治験では必ずプラセボが用いられるわけではなく、同種同効薬が用いられることも多いです)。
臨床試験におけるプラセボの問題点
プラセボの臨床試験での意義について話してきましたが、今度はプラセボを使うことの問題点について述べていきたいと思います。
半数近くの被験者が期待した治療の効果を享受できない
被験者への倫理的配慮の観点からプラセボを試験でも標準治療をベースに、追加して治験薬orプラセボを投与されるのが一般的です。レケンビの試験でも被験者登録基準においては合併症や併用治療を許容していたため、何も治療していない状況という状況は避けられていたのではないかと思います。
しかし、それでもやはり標準治療もなく既存の治療法では効果が見込めない被験者においては、プラセボを投与されることは辛いことです。
そういった課題がある中、国立がん研究センターが面白い取り組みの発表を行いました。プラセボ群の代わりに過去の臨床データを用いて新薬の承認を目指すというものです。
引用元:国立がん研究センターHP https://www.ncc.go.jp/jp/information/researchtopics/2023/1005/index.html
被験者に新薬のみを投与できることで先ほどの課題を克服できる点はもちろん、製薬会社にとっても治験に必要な人数も減ることになるかと思いますので、承認までの迅速化や開発コストの削減などのメリットだらけの取り組みです!科学雑誌「Nature Medicine」に掲載されたようですね。
プラセボ製薬???
プラセボを専門にした企業があるようです。名前もなんとプラセボ製薬
2014年3月14日に創業と10年ほど前からあったのですね。社名に製薬とついているものの、医薬品等の製造販売業・販売業許可は取得していないようです(プラセボだから当たり前か)。見る感じお菓子のようなもので、実際の治験で用いられるようなプラセボではないようですが、面白い会社ですね。
引用元:プラセボ製薬HP
プラセボでイグノーベル賞!?
プラセボについて調べていたらイグノーベル賞を受賞した研究を見つけました。毎年日本人が受賞していた話題に上がる賞ですよね。
2008年にイグノーベル賞の医学賞を受賞した研究は、デューク大学で心理学・行動経済学を専門とするダン・アリエリー教授の高価な偽薬(プラセボ)は安価な偽薬よりも効力が高いことを示したという研究です(論文:Commercial Features of Placebo and Therapeutic Efficacy)。
論文を探したらあったので、簡単に研究の概要を紹介します。
まず82人の被験者を集め、彼らにはFDAに承認された即効性のある新しいオピオイド鎮痛薬を服用してもらうと伝えました。実際に用いたのはすべてプラセボです。そして被験者の半数には薬の価格が通常価格の1錠2.5ドル、もう半数には値引きされて0.1ドルであることを伝え(値引きの理由は特に伝えられていなかったようです)、治験の報酬として30ドルずつ支払いが行われました。試験は電気ショックを与え、刺激に対する反応の変化を比較するといった内容です。
ちなみにこの研究はMITのIRB(治験審査委員会)の承認を受けている試験です。名門大学の審査の下行われたちゃんとした試験ですね。
プラセボ服用後に痛みの軽減を感じたのは通常価格群で85.4%、割引価格群で51%でした。また、強度の刺激を与えたときの痛み軽減を解析すると、通常価格群で80.5%、割引価格群で56.1%でした。このように、高いプラセボの方が効果があったことが研究から示されてます。
引用元:Rebecca L. Waber; Baba Shiv; Ziv Carmon; et al. JAMA 2008 Mar 5;299(9):1017
プラセボ効果恐るべし…。効力ない錠剤で8割の被験者が効果を感じていますね。
治験におけるプラセボ効果を排除することの大切さを教えてくれた研究だと思います。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
プラセボ効果って日常会話でも使うくらい身近なもの言葉でもあると思いますが、調べてみて効果の大きさを改めて実感しました。思い込みの力は大事ですね。何事にもポジティブでもいようと思います。